2006年のある日の出来事。

日頃からお世話になっている設計会社の設計士さんOさんが

2006年の秋に亡くなった。

Oさんとは2件の物件をご一緒させていただいた。

風邪のウィルスが脳に行き、ウィルス性の脳炎になったのだ。

つい1週間前にお顔を拝見したばかりだったので、

訃報を聞いた時にはあまりに驚いて、しばし呆然とした。

 

とても穏やかで優しいお人柄のOさん。

少し小椋桂さんに似ていたOさん。

お年は50歳くらいだったと思う。

Oさんのお通夜の時に、

会社の皆さんが、Oさんの業績を小冊子にまとめ、私たちに下さった。

その小冊子が、時々アミカの本棚からひょっこりと顔を出す。

一番最後のページにOさんが寄稿した社内誌の抜粋が載せられていた。

Oさんらしさが滲み出ていて、読むたびにご本人が目の前にいるような温かさを感じる。

 

 あれは何時のころであったろうか。

小学校低学年だったと思う。

体育の時間に逆立ちをやらされ、

出来ない子は家で特訓するように言われた。

期限は確か2週間であった。

 以来、学校から帰ると鞄を玄関に放り投げ

近くの原っぱに出かけたものだ。

友達と助け合いながら練習をすると、

やがてサポートなしでもある程度形になってきた。

 自力で逆立ちに挑戦だ。

大きく蹴り上げた片足、

それと後から追うもう一つの片足。

一瞬青空に2本の足が止まった。

あたかも時間が止まったかのような、

何ともいえない満足感と静寂の時間。

 やがてつま先は、ゆったりと大きな弧を描きながら

足と背中が同時に大地にぶつかった。

息が詰まりながらも見上げた空は、

真青で白い飛行機雲が左から右へ流れている。

後ろから音が飛行機雲を追いかけていく。

湿った土の香りと草の匂い。

平和で、のどかで安らかな時間。

 あの頃のそんな時間をまた体験してみたいと思う今日この頃の私です。

 逆立ちの試験はどうであったかは定かではない。

(2005年2月25日社内誌より)

 

青空を見ると時々Oさんを思い出す。

皮肉だけれど、今は青空の向こうで

平和でのどかで安らかな時間を過ごしていることと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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